相続では不動産に絡むトラブルが起きやすく、日本では多くのケースで遺産に不動産が含まれるので要注意です。
問題の1つに、被相続人の配偶者が自宅を追い出されてしまうケースや、自宅に住めたとしても生活費が足りなくなるケースが起きやすいことがあげられます。
この問題に対処するために創設されたのが「配偶者居住権」ですが、新しい制度であるため一般の方にはまだなじみが薄いのが実情です。
本記事では配偶者居住権を取り上げて、設定要件やメリット・デメリット、登記や税金などについて全体的に解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
【目次(タップで移動できます)】
・配偶者居住権とは?
・配偶者短期居住権との違いは?
・配偶者居住権のメリット・デメリット
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不動産相続で揉めたくない方必見!
相続ではすべての相続財産が遺産分割の対象になりますが、不動産は現預金のように1円単位で簡単に分けるということができません。
そもそもの性質上の問題として分割しにくいため、不動産は相続において揉め事の原因になりやすいです。
そのため、不動産は売却して現金に換える「換価分割」が検討されることがありますが、自宅に住みたい人がいる場合は不動産を売ることができません。
被相続人の死亡時に配偶者が生存しているケースでは、自宅に引き続き住み続けたい希望を持つことも多いでしょう。
このように配偶者の不動産相続をめぐっては、配偶者が困ってしまうケースが多くあったため「配偶者居住権」が創設されました。
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、被相続人の死後に残された配偶者が自宅に住み続けることができる権利です。
従来の民法のルールで遺産分割をすると、遺産の構成内容や価額によっては「自宅に住み続けることができないケース」や「生活費に不安を残すケース」が起こりやすいと指摘されていました。
被相続人と特別に深い関係にある配偶者については、保護の度合いを強める必要があると新たに創設されたのが「配偶者居住権」です。
通常、安心して自宅に住み続けるには自宅不動産の所有権を取得する必要がありますが、配偶者居住権はあくまで「居住する権利」です。
所有権から「居住する権利」を分離して運用することで、配偶者が自宅に住み続けつつ、生活費となる現預金の相続をしやすいように工夫されています。
これについては下の「配偶者居住権ができた背景」の章で具体的に解説しています。
配偶者居住権が設定できる要件
配偶者居住権を設定するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
▼配偶者居住権の設定要件
1.配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していたこと
2.相続開始時において、被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していないこと
3.以下のいずれかに該当すること
a 遺言により配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと
b 遺産分割協議によって配偶者居住権が設定されたこと
上記①は難しくないと思います。
②は「建物」の共有がなかったことが条件となるので、被相続人が土地を配偶者以外の人物と共有していたとしても問題ありません。
③については、配偶者居住権が被相続人が残した遺言もしくは相続人同士の遺産分割協議によって設定される必要があるということです。
遺言による場合は「遺贈」の目的とされる必要があります。
遺言を残す側(被相続人となる人)は遺言書作成時に「相続」という表記ではなく、「遺贈」を用いて配偶者居住権を設定する配慮が必要です。
相続発生開始前の場合は、細かい要件を弁護士等に事前にご確認ください。
配偶者居住権ができた背景
相続分野の民法改正で配偶者居住権が作られた背景には、先ほど少し触れたように「相続不動産の扱いがかなり難しいこと」に原因があります。
相続不動産を巡って相続人同士が争った結果、被相続人の配偶者が家を追われるケースが少なからず発生しています。
仮に遺産分割では揉めなかったとしても、今までの法律では配偶者の住居を優先すると「配偶者の現金取り分が減る」という問題が起きていました。
そこで、国としては配偶者が安心して最後まである程度の資金をもって、自宅で暮らせるようにと「配偶者居住権」を設定しました。
【ポイント】
配偶者については自宅の所有権ではなく、「住むだけの権利=配偶者居住権」を設定し、その分不動産の評価額を下げることで現預金の取得枠を増やせるようにしました。
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配偶者居住権が必要とされる例
たとえば、夫と妻、子が一人というケースで夫が死亡し相続が起きたとします。
相続財産は自宅不動産(評価額2000万円)と現預金の3000万円だったとしましょう。
一般的に、年老いた妻は老後の住居を確保することが優先されるため、自宅の相続を優先することが多く、そうすると現預金の多くを子が相続することになります。
妻は住居の確保はできますが、現金が少なく今後の生活に不安が出てしまいます。
妻側としては、自宅も生活に必要な現金もある程度確保したいというのが本音でしょう。
配偶者居住権がないときの遺産分割
先ほどの例では、相続財産は不動産と現預金を合わせて5,000万円です。
妻と子はそれぞれ法定相続分が1:1ですから、計算上は妻と子がそれぞれ2,500万円ずつの取り分ということになります。
しかし、自宅不動産は物理的にカットすることができません。
そのため妻はまず2,000万円の自宅を優先的に確保し、残った取り分として現預金は500万円しか手にすることができません。
不動産はどうしても高額になってしまうので、全体の取り分を圧縮してしまい、生活費となる現金の枠が小さくなってしまうというわけです。
配偶者居住権があるときの遺産分割
配偶者居住権は「住むだけの権利」ですので、不動産を丸ごと相続するときよりも評価額が下がり、現金を貰える枠が増えます。
仮に今回の例(不動産2,000万円)で、住むだけの権利が1,000万円と評価されれば、配偶者は残りの枠1,500万円を現預金で手に入れられます。
▼配偶者居住権を利用した遺産分割
・配偶者:配偶者居住権1,000万円+現預金1500万円(計2,500万円)
・子:自宅所有権1,000万円+現預金1500万円(計2,500万円)
これなら配偶者は住居を確保したうえで生活資金も同時に得ることができます。
子も法定割合通りの遺産を貰えるため、大きな不満は出にくいでしょう。
なお、子が相続する自宅不動産の所有権は、配偶者が住むために自由利用ができないことから「負担付所有権」と呼ばれます。
負担付所有権は売却することも可能ですので、子の利益も一定程度の確保が保たれると考えられます。
配偶者居住権は登記できます
配偶者居住権は、権利設定を登記に反映させられます。
登記は義務ではありませんが、今後のトラブル防止を考えると登記手続きを取ることが強く勧められます。
配偶者居住権と対をなす負担付所有権は売却することもできるため、これを取得した相続人が第三者に売却することも考えられます。
その場合、譲り受けた第三者に配偶者が対抗するには登記が必要です。
登記があれば、「この家は私(配偶者)に住む権利があります」と相手に主張できます。
この主張ができないと負担付所有権を譲り受けた者とトラブルになり、自宅を出ていかなくてはならない事態となる可能性もあります。
登記をすることで対象の自宅家屋に配偶者居住権が設定されていることが登記簿に反映され、こうしたトラブルを回避できます。
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配偶者短期居住権との違いは?
配偶者居住権を知るうえで、法改正で新たに作られたもう一つの権利「配偶者短期居住権」についても理解すると便利です。
似たような単語で混同が起きやすいためご注意ください。
本記事で解説してきたい配偶者居住権は、基本的に配偶者が死亡するまでの長期間を想定した居住権の確保が目的です。
これに対して配偶者短期居住権とは、相続発生からごく短期間(概ね6ヶ月程度)の居住を可能にするために作られたルールです。
配偶者短期居住権は、相続発生後に配偶者が慌てて引っ越ししないでいいように作られました。
ざっくりと、「死亡まで自宅に住める権利」と「落ち着くまで自宅に住める権利(相続発生から約6ヶ月)」だと認識するといいでしょう。
配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 | |
---|---|---|
成立 | 配偶者居住権が設定できる要件をすべてクリア | 相続開始時に配偶者が被相続人の建物に無償で居住している |
権利の存続期間 | 配偶者が死亡するまで | 最低6ヶ月 |
登記できるか | できる | できない |
両権利の詳しい違いは下記で確認していきます。
成立要件について
配偶者居住権は「配偶者居住権が設定できる要件」の項で見た各種要件のクリアが設定条件となります。
これに対し、配偶者短期居住権は、相続開始時に配偶者が被相続人の建物に無償で居住しているだけで成立します。
権利の存続期間について
原則、配偶者居住権では配偶者が死亡するまで自宅に住み続けられる権利が与えられます※。
※遺言で特別の定めがある場合や、遺産分割協議の話し合いによっては別途の期間を定めることもできます。
一方、配偶者短期居住権は最低6ヶ月間の権利が保証されます(遺産分割協議をする場合は協議が整うまで)。
登記制度の有無
- 配偶者居住権は登記できる
- 配偶者短期居住権は登記できない
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配偶者居住権があるときにできること・メリット
ここでは配偶者居住権があることで得られるメリットなどについて見ていきます。
建物には無償で住める
配偶者居住権は賃貸借ではありません。
法律上の認められた権利により無償(=無料)で住むことができます。
所有権(負担付所有権)者に対し家賃を払う必要はありません。
建物の修理は自分の判断でできる
建物に補修や修理が必要と判断した場合は、配偶者の判断で補修、修理をができます。
建物の所有権者への事前相談は不要です。
雨漏り等生活するうえで修理しないと困ることについては、配偶者が勝手に修理してOKということです。
ただし、この費用負担については配偶者が負います。
建物の増改築は所有者の許可が必要
必要があれば建物の増改築もできますが、所有者の承諾が必要です。
配偶者はただの居住者であるため、勝手な増改築はできません(これは今までと感覚が異なるので注意が必要でしょう)。
固定資産税について
固定資産税は不動産の所有権を持つ者に納税義務があります。
よって、基本的には所有者が固定資産税を支払いますが、配偶者居住権においては建物の通常の必要費は配偶者(=住んでいる人)が負担することとなっています。
所有者が負担した固定資産税分を所有者から配偶者に請求することが可能です。
もちろん、請求するかどうかは自由ですから、負担付所有権を取得したのが身内であれば請求しないということもあるでしょう。
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配偶者居住権を検討するときの注意点・デメリット
配偶者居住権を設定するかどうかは自由に決められます(不要と思えば設定する必要はありません)。
ただし、設定する場合はメリットだけでなく注意点やデメリットにも気を配るようにしましょう。
所有権を誰に渡すかよく考えること
配偶者居住権、「所有権」と「居住権」を分離して考える権利です。
設定時には、居住権だけでなく「負担付所有権」を誰に取得させるかを不動産以外の遺産の取り分も含めてよく考える必要があります。
配偶者居住権を持つ者が死亡するなどして当該権利が消滅すると、負担付所有権を持つ者が対象となっている建物を取得することになります。
たとえば、父が死亡し母と子二人(長男・次男)が相続人となるケースで、母が配偶者居住権を取得したとしましょう。
この場合、長男が負担付所有権を取得したとすると、母死亡後は制限のない完全な所有権を長男が得ることになります。
相続発生当初の遺産分割協議でこの点に留意して話を進めないと、自宅不動産の権利を得られない次男から不満が起きトラブルになることも考えられます。
対処方法としては、自宅の所有権が得られない次男には、現金を多めに渡すなどの工夫が考えられるでしょう。
【注意】
負担付所有権は他人に譲渡できます。
配偶者居住権を得る側は、トラブルを避けるためにも所有権の売却を考えない相手に所有権を得てもらうようにすると安心です。
内縁の妻はこの制度を利用できない
配偶者居住権が認められるのは「法律上の婚姻をした配偶者」だけです。
内縁の妻などは対象外となります。
内縁の妻は法定相続人ではないため、特別に財産を残したい場合は遺言書を用意する等の準備が必要です。
詳しくは相続に強い司法書士・弁護士へご相談ください。
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特に自宅に住む人がいない場合は相続不動産の売却がおすすめ
配偶者居住権は、自宅に住み続けたいと望む配偶者を保護するための制度です。
必要であればぜひ検討すべきですが、残された自宅に住み続けたいと残された配偶者が願わない場合は考慮する必要がありません。
日本全国では使用されない相続不動産の空き家化が急速に進行しており、老築化から周囲に危険を生じさせている事例が多く報告されています。
また所有者不明の不動産が増加し、こちらも各地で問題になっています。
相続で使用しない不動産を引き継いだならば、ぜひ早めに売却して現金に換えてしまいましょう。
売却して所有権を手放せば管理の責任や税金、メンテナンス費用の負担も発生しません。
また換価して現金に換えることで、遺産分割に際しては1円単位で平等に分けることができます。
人が住まない家は劣化が激しく進み、数年で価値が激減してしまうため、できるだけ早く売却する方がお得です。
まとめ:配偶者居住権の設定前はプロに相談を
配偶者居住権は、残された配偶者が安心して自宅に住み続けられるようにという意図で作られた制度です。
「家屋の所有権」と「居住する権利」を分離することで生み出されました。
配偶者居住権は、被相続人が遺言書で指示をするか、相続人同士で話し合って権利を設定する必要があります。
可能であれば、生前から配偶者居住権の必要性について家族で話し合っておくといいでしょう。
相続発生後であっても配偶者居住権を設定できますが、作られて間もない制度であるため、利用時は専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
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